mother concept

 私は、10才より続けてきた平面作品の制作活動を、三女を産むために2007年に断ち切ることとなった。なぜなら三女は生まれながらにして脊椎の重い病を持ち、私はそれと向き合う決意をしたからだ。三女の命と完全に向き合うためにアーティスト清水龍鳳を捨てる覚悟であった。

そして娘は生まれ病との闘いの日々ははじまった。月日はあっという間に流れていった。

 娘が3才をむかえた2011年1月、彼女の身体をベストな状態に保つための医学界のスペシャリストが全て揃い、ようやく最善の体調管理が約束された。彼女の最善の体調管理は、私の心に余裕と少しの時間を与えてくれた。

真っ先にこのわずかな時間で何を描こうかと考えた。

 結果、深く考える間もなく、私の目の前には三女しかいなかった。デッサンを始めた。やはり、4年の月日は私の中で無意識に制作という欲をため込んでいた。来る日も来る日も時間の隙間をみつけては、デッサンを繰り返した。最高に楽しかった。

そして、motherの原画となるデッサンが生まれた。

 はじめ、彼女の無垢で愛らしいその表情を描いたのだが、その瞳は何か大きな漠然としたものを見ているように思え、球体を描いた。それは地球のようであった。これを見ている彼女は内からエネルギーを発し、髪は自力で舞い上がり、誰かが彼女の見ているものを読み取っているように感じた。そして作品の頭部に彼女が感じたことを第三者へ伝えるための機械がついた。

これが作品 motherのはじまりである。

描いたのは3.11直前であった。

 彼女は動じないが、知っていたような気がする、天災だからと悟っていた気がする。なぜなら彼女には普通の人には無い力があることを、私はいつもそばで感じてきたからだ。彼女の体は人間に与えられるべき機能のいくつかが不完全である。しかしそれを補うかのように、普通の人にはないものがある。

 彼女は誕生する前から彼女自身で色々なものを用意し、人を動かし不思議な力を持って生まれてきた。

 主治医と私の家族、周囲の人々はまだ見ぬ重い病を抱えた小さな命の為に一人一人懸命に尽くし、彼女は生まれた。多くの人に支えられ守られ4年の月日が流れていった。

 そして彼女を支えてきた一人一人は彼女のかけがえのない人となり、その人達一人一人が作品タイトル「mother」となるのである。

motherの原点は愛である。

 誰一人欠けてもこの子は作品 motherのように優しく、子供らしい、愛らしい表情で生きることはできない。

 タイトル「mother」のはじめの二人となったのは私の実弟とこの世に二日しかいることのできなかった私の息子である。弟はこの重い病と向き合える医師が日本にいるのかもわからないまま、来る日も来る日も一刻も早く治療が受けられるよう寝る間も惜しんで探し続けた。弟の努力は日本で唯一三女の病と闘うことの出来る医師を探し当てることと至った。
 しかし、やっと見つけたその医師にすぐに会えるのか、いま日本にいるのか、治療が受けられるのかと私は困惑し路頭に迷っていた。どうしたらよいかわからず亡き息子の墓前で無心に祈った。その姿が人から人へと伝わり弟の探し当てた医師と巡り合うこととなるのである。

 二日間だけこの世に生まれた息子は三女と主治医を繋ぎ、彼女を救うために兄として生まれていたのだとこの時悟った。

それは神の啓示だったのだろう。

 現在、彼女は彼女の体を管理している10人のドクター誰一人欠けてもその体を保つことが出来ない。彼らは彼女にとって現在の重要な「mother」でなのである。

 三女の頭部には事実機械が埋め込まれている。この機械は現在良い状態で過ごせるほど性能が良くなったものの、数年前はトラブル続きの機械であった。この機械一つにしても、その性能が彼女の生活を左右する。また、腸の役割は経口薬でコントロールしている。小さい体で何度も手術しその体を保っている半人工的な身体である。

しかしながらこの半人工的身体は、人が様々な研究を過去重ねてきてくれたおかげで、現在保たれている。懸命にこの病と向き合ってくれている人がいる。そしてこの病を研究している人もいる。実に過去、現在、未来を背負った不思議な子である。

多くの人の愛や熱意を受け、守られている。

それが三女であり、作品 motherのもつテーマである。

そしてmother[0001]はそれらを伝えるべく私の生涯をかけたアート作品の原点として大きなスケールで生まれた。

 それでは、mother[0002]はどのような思いで制作されたか。先にも述べたように彼女を支えている人全てが「mother」である。mother[0002]はその作品の鑑賞者もmotherの1人となる体感型の作品として生まれた。

 mother[0002]のmotherは体を守るケースを指し[0002]は人物立体作品を指す。[0002]の体調は外界からのダメージを受けない母の胎内のようなケースmotherによって守られ安定している。鑑賞者はケースmotherの下に用意された心電図を見て彼女の体調の安定を管理し、その表情から安心を感じる。鑑賞者がその安定を感じた時、[0002]の体の管理者となる。

そしてその鑑賞者はタイトル「mother」の1人となる。

 このmother作品は、[0001][0002][0003][0004]・・・と実在する三女の成長と共に生まれ、その刻んだ命の歴史と共に彼女の背負った過去、現在、そして未来、人の愛、社会、時代が表現されていく。

 今を生きる人は過去人が作ってきた歴史を受け、喜びや豊かさを持つことが出来る。彼女はその豊かさの中で現在の生活が保たれている。
 しかしながら、天災から引き起こされる人災など、人の造り上げたものは辛く悲しいことにつながることもある。この時代を体感し現在を生きる私たちは愛をもって誠実に今を生きていくことが、未来の希望へと繋がる。未来の人は過去の人となる私たちの犠牲になるのではなく喜びや豊かさを享受し、より豊かな時代を築いてほしい。

そんなメッセージもこの作品には込められている。

 目まぐるしく変化していく現代社会の中で見落としている大切なことを彼女は私に教えてくれる。

 そしてこれを、現在、未来に伝えるべく、私は彼女が生まれる前からアーティストとして用意されていたような気さえする。

 命の大切さ、それは現在だけではなく未来の命も私達は考えなければならない。三女は私にそう言ってくれる。そしてそれを私はアートで伝え多くの人が共感し、新しいアートの歩みが生まれることを願っている。

 この作品が20年続き・・・[0007][0008][0009]・・・となった時、このような言葉を待たずして、作品を鑑賞するだけでそのメッセージが伝わるのであろう。

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