第二章 神秘の力
時は流れ、7年が過ぎた。
私はその間、作品mother を制作する事は無かった。
三女の病との闘いはやはり私に制作の時間を与えてはくれなかったのだ。
私は、これから来るであろう辛く苦しい病との闘いと三女の半人工的な体で社会へ歩み出す現実にいつも怯えていた。
重い病を天与のものとされた三女には天真爛漫な幼少期など最初から約束されてはいなかったからだ。
そして、mother 0003 のケースの中で守られていた三女の姿は、現実の社会の歩みと共に、そのケースから出るのである。
三女は教育を受ける歳になった。
教育とは、人間を望ましい姿に変化させ,価値を実現させる活動であり、教師は愛に導かれ生徒をより高い「真・善・美」の世界に進めるよう努力するものである。 しかし、その現場には、本来の目的とは程遠い、名誉、権力、支配、保身という人間の社会的欲望が幾つも重なり合い、繰り返された「欲望の渦」が存在していた。
そして、その渦に三女は幾度も飲み込まれてしまうのだった。
ベッドで小さく踞り、震え、歯を食い縛り、涙を堪えていた姿が今も鮮明に蘇る。
これが彼女の現実だった。
この時8歳である。
そして「欲望の渦」は医療の現場にも存在していた。
私は何故、三女がこの「欲望の渦」に幾度も飲み込まれてしまうのか、不思議でならなかった。
時は過ぎ漸く私は気付くのだ。
三女は11年前、人を動かす不思議な力を持って誕生してきた。 そして社会と現実に生きる今、日々を積み重ねて行く中で、その力が強くなっている事に私は気付くのだ。
彼女は「欲望の渦」に飲み込まれていたのでは無く、自分自身が渦に入る事で、その自身の不思議な力を働かせ「欲望の渦」から周囲の小さな命の未来を救っていたのだった。
これも三女の天命なのであろう。
三女の天命はいつも同時に「不思議な力」が働く。
そして、私は描いた。
自身を犠牲にして小さな命の未来を救って行く少女の神秘の姿を。
浮遊した体と自力で舞い上がる髪は、mother 0001 同様、三女が発する不思議な力とエネルギーを表現する事になった。
そして、その力は以前より遥かに増している。
11歳になった三女の姿は7年前と変わらず、手にする球体を見て微笑んでいる。「欲望の渦」の無い、輝く地球の未来をそこに見ているのだ。
彼女を愛し、彼女の命を救って来た教育者やドクターの様に全ての人が「愛と志」を持って小さな命と向き合って欲しいと彼女は願っている。
mother 0006 の誕生である。
私は現実の三女の姿も描いた。
「欲望の渦」の深い苦しみや悲しみ孤独の中で、彼女がその瞳に命を宿らせて行く姿を...
mother0007・0008である。
そして、三女は、何時しか自身でそのメッセージを発信する少女になっていた。
人間には「愛」が最も重要である事を....
これが、mother 0009である。
この作品が、三女からの「命と愛のメッセージ」というギフトと手紙となり「世界の人々、そして未来へ...」届いて行く事を私は願っている。
三女は「愛」の必要性を語る。
それは、人々の愛に守られてきた心と体であるが故に語る事が出来るのであろう。
沢山の溢れる人々の深い愛が三女にはあったから、幾つもの苦難を乗り越えて来れたのであろう。
motherの原点は「愛」である。
三女の心と体は人々の「愛」で保たれている。
三女の苦難の連続と現実は、人の根底に存在しなければならない「愛」を教えてくれた。
mother0009に託された、11歳の少女からの世界中の人々へ大切なメッセージは、次の通りである。
「 生きるの その日その日の自分の命と愛を大切に... 」
彼女の神秘の力と「命と愛のメッセージ」はまだ観ぬ未来でその働きを変え、今よりも更に力を強めて行くのであろう...